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大阪地方裁判所 平成7年(わ)898号 判決

裁判所書記官

黒正三

本籍

大阪府堺市東湊町二丁一三二番地

住居

大阪府堺市東湊町二丁一三二番地の一

土木建築工事業

荒木昌治

昭和二二年七月五日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官仁田裕也出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年四月及び罰金五〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、大阪府堺市東湊町二丁一三二番地の一において、「荒木工務店」の商号で土木建築工事業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、

第一  平成二年分の総所得金額が一億三五一七万六八五三円であった(別紙1の1の総所得金額計算書参照)のにもかかわらず、実際の総所得金額と無関係な過少な所得金額を記載した内容虚偽の所得税確定申告書を作成し、右事業によって得た資金を他人名義の定期預金または定期貯金として留保するなどの行為により、その所得の一部を秘匿したうえ、平成三年二月二八日、大阪府堺市南瓦町二番二〇号所在の所轄堺税務署において、同税務署長に対し、平成二年分の総所得金額が三四八万三一〇〇円で、これに対する所得税額が一九万二三〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を渡過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額六二九〇万六五〇〇円との差額六二七一万四二〇〇円(別紙2の税額計算書参照)を免れ、

第二  平成三年分の総所得金額が一億四五六五万七九一九円であった(別紙1の2の総所得金額計算書参照)のにもかかわらず、前同様の方法により、その所得の一部を秘匿したうえ、平成四年二月二五日、前記所轄堺税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の総所得金額が三六七万九二〇〇円で、これに対する所得税額が二一万一九〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を渡過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額六八一四万七〇〇〇円との差額六七九三万五一〇〇円(別紙2の税額計算書参照)を免れ、

第三  平成四年分の総所得金額が一億六一七〇万三五一〇円であった(別紙1の3の総所得金額計算書参照)のにもかかわらず、前同様の方法により、その所得の一部を秘匿したうえ、平成五年二月二四日、前記所轄堺税務署において、同税務署長に対し、平成四年分の総所得金額が四一二万六〇八七円で、これに対する所得税額が二九万一〇〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を渡過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額七六三四万二〇〇〇円との差額七六〇五万一〇〇〇円(別紙2の税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

注・以下において、証拠中、末尾の括弧内に記載した漢数字は、証拠等関係カード(請求者等検察官)の証拠請求番号を示している。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  第一回公判調書中の被告人の供述部分

一  被告人の検察官に対する供述調書七通(六四乃至七〇)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書五三通(記録第二二-一(八)、同第二二-二(九)、同第二二-三(一〇)、同第二二-四(一一)、同第二二-五(一二)、同第二二-一一(一三)、同第二二-一二(一四)、同第二二-一三(一五)、同第二二-一四(一六)、同第二二-一五(一七)、同第二二-一六(一八)、同第二二-六(一九)、同第二二-七(二〇)、同第二二-八(二一)、同第二二-九(二二)、同第二二-一〇(二三)、同第二二-一七(二四)、同第二二-一八(二五)、同第二二-一九(二六)、同第二二-二〇(二七)、同第二二-二一(二八)、同第二二-二二(二九)、同第二二-二三(三〇)、同第二二-二四(三一)、同第二二-三四(三二)、同第二二-三五(三三)、同第二二-三六(三四)、同第二二-三七(三五)、同第二二-三八(三六)、同第二二-三九(三七)、同第二二-四〇(三八)、同第二二-四一(三九)、同第二二-四二(四〇)、同第二二-四三(四一)、同第二二-四四(四二)、同第二二-四五(四三)、同第二二-三三(四四)、同第二二-一〇九(四五)、同第二二-二五(四六)、同第二二-二六(四七)、同第二二-二七(四八)、同第二二-二八(四九)、同第二二-二九(五〇)、同第二二-三〇(五一)、同第二二-三一(五二)、同第二二-三二(五三)、同第二二-四六(五四)、同第二二-四七(五五)、同第二二-四八(五六)、同第二二-四九(五七)、同第二二-五〇(五八)、同第二二-五一(五九)、同第二二-五二(六〇))

一  大阪国税局収税官吏作成の「所轄税務署の所在地について」と題する書面(七)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の証明書(平成三年二月二八日に申告した所得税の確定申告書写についてのもの)(四)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が平成二年一月一日から同年一二月三一日までのもの)(一)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の証明書(平成四年二月二五日に申告した所得税の確定申告書写についてのもの)(五)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が平成三年一月一日から同年一二月三一日までのもの)(二)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の証明書(平成五年二月二四日に申告した所得税の確定申告書写についてのもの)(六)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が平成四年一月一日から同年一二月三一日までのもの)(三)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれについても、所定刑中懲役刑及び罰金刑の併科を選択し、かつ、情状により同条二項を適用し、以上は平成七年法律第九一号附則二条一項本文により同法による改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年四月及び罰金五〇〇〇万円に処することとし、同法一八条により、右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、土木建築工事業を営んでいた被告人において、三年度にわたり、合計二億〇六七〇万円余もの所得税をほ脱した事案であり、ほ脱額自体高額であるうえ、ほ脱税率も三年度全体で約九九・六パーセントと著しく高率な脱税事犯であって、国家の課税権を甚だしく侵害する、反社会的な犯行といわねばならない。

他方、本件はいわゆるつまみ申告の事案であるが、被告人による積極的な秘匿行為があったとまでは認められないこと、ほ脱所得の大半は被告人自身あるいは親族名義の預金によって留保するなど、その脱税の方法は比較的単純なものであること、被告人は本件摘発後、事実関係を素直に認め、反省態度にも真摯なものがあり、本件ほ脱について修正申告を行い、加算税、延滞税等の付帯税を含む国税の納付を済ませていること、さらに、事業を法人化するとともに、税務関係については、税理士の指導のもとに適正な税務申告につとめる旨を誓っていることなど、被告人に有利な事情も認められるところである。

そこで、その他の諸般の事情をも総合考慮し、主文掲記のとおり量刑した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 石井俊和)

別紙1の1

総所得金額計算書

〈省略〉

修正貸借対照表(事業所得)

〈省略〉

修正損益計算書(不動産所得)

〈省略〉

別紙1の2

総所得金額計算書

〈省略〉

修正貸借対照表(事業所得)

〈省略〉

修正損益計算書(不動産所得)

〈省略〉

別紙1の3

総所得金額計算書

〈省略〉

修正貸借対照表(事業所得)

〈省略〉

修正損益計算書(不動産所得)

〈省略〉

別紙2

税額計算書

〈省略〉

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